少年シニア 55歳から味わう国語

50半ばから人生を味わうために国語力アップを目指す記録・顛末

少年文庫№5 モ モ (エンデ)

  モモ (岩波少年文庫(127))著者 ミヒャエル・エンデ 訳者 大島かおり 2005年6月刊 岩波書店

               

  業務の効率化は経営の永遠の課題のようで、手を変え品を変えては実行に移されますが、その陰で行き過ぎた効率化により様々な弊害が起きています。それは業務のみならず、時に人間をもその強迫概念で追い込み疲労させ粉砕させます。

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 この物語の主人公モモが迷い込んだこの古い街にも、皆の気が付いていない所でそのような状況が進行していたようです。

貧しくとも気のいい人たちが自分達の仕事に誇りをもってそれなりに暮らしていたこの街は、時間貯蓄銀行に所属する灰色の男たちが忍び込んできたのを機に、時間に追われるだけの無味乾燥な人々の魅力のない街になりはててしまいます。

灰色の男たちは、人々が貯蓄した時間をエネルギーにして生きており、それは人間の心が作り出しているのです。

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 人々の気持ちを開放させることができるモモの力も及ばず、モモの最大の理解者のお調子者の青年ジジも掃除夫のべボ爺さんも、結局は灰色の男たちによって時間に追われる人間になってしまいました。自分達で遊びを考えて本来は時間に縛られない子供達も、学校で機械的な学習をさせられて輝きを失っていきます。

 しかし外からの圧力に屈せず自分の意志で時を過ごす能力をもつモモは、同じ能力をもつカメのカシオペァの助力を受けて、灰色の男たちから時間を奪い返し、時間と自分を失った人々に戻そうとします。さてその結末は如何に・・・・

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 この奇妙な物語は、効率ばかりを追い求め人間らしさを自ら失った社会に対する痛烈な時代批判です。

金に縛られない者でも概して時間には縛られる。手帳のスケジュール欄に予定を埋めないと不安で仕方がない人は今も多くいます。

効率性を求められ、それをそのまま無批判に服従する人は、時間の奴隷に成り、人生の豊かさをいとも簡単に捨ててしまいがちです。そしてその結果、無気力で逆に時間を持て余すような人に成り果ててしまうのです。

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 エンデはこの物語を40年前に書いたのですが、残念ながらこの憂うべく状況は益々ひどくなってきており、より巧妙な形で我々に忍び寄ってきている気がしてなりません。社会や組織が大きな枠組みを決め、その中でのみの自主性を促すというやり方により、自主性を尊重しているポーズをとるわけです。

学生の頃、エーリッヒフロムの「自由からの逃走」という本を読んで衝撃を受けました。人間は自由を希求しながらも、実際は自由を恐れ大きな枠の中で統制されたいと願っているとフロムは言うのです。

そしてナチズムを支えたのは、当時のドイツ人のこの自由からの逃走という欲求だと主張しました。

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 時間から自由になるのは中々大変なことです。簡単にはモモやカシオペアのようになれないのです。

しかし生きている間の一時でもいいから時間に縛られない自由を得たいと思います。この自由なくしては本当の意味での主体的な生き方はないことを、この物語が教えてくれている気がしてなりません。