少年シニア 55歳から味わう国語

50半ばから人生を味わうために国語力アップを目指す記録・顛末

少年文庫№2海底二万里(ヴエルヌ)

 

海底二万里 (上) (岩波少年文庫(572))【著者】ジュール・ヴェルヌ 訳者 私市保彦 2005年8月刊 岩波書店

 

 SFを読んでいつも驚かされるのは、SF作家の凄まじいほどの好奇心と知識です。例えば国内だと、「日本沈没」や「復活の日で有名な小松左京ショートショート星新一。海外ではAアシモフやHGウエルズ、そして取り分け凄いのが、本書の著者であるJヴエルヌです。「80日間世界一周」「地底旅行」「月世界旅行」「海底二万里」と考えうる冒険の場をすべて題材にして、空想力豊かな冒険小説に仕立てあげてしまいました。

                                🐚   🐚   🐚   🐚   🐚

   19世紀半ばに英国で出版された「海底二万里」は、家にいながら海底の神秘を疑似体験できる教養SF冒険小説です。こちらは少年少女向けに執筆されたとは思えないくらい科学知識をベースとした解説が文中に施されているのは驚きです。とりわけ本書の航海の母体となる「ノーチラス号」の各設備や、海中の様々な生物についての記述はかなりマニアチックなもので、読者である少年少女は、どきどきしながら読み進めていくうちに、理科の知識も身に着けることができる仕掛けになっています。

そして本書を、単なる海底散策の冒険物語ではない厚みのある作品にしている最大の要因が、ノーチラス号のネモ船長の圧倒的な存在感です。

                                       🐚   🐚   🐚   🐚   🐚

 世界中の海洋の異変の解決をはかるべく調査に出て捕らわれたアロナックス博士の言を借りれば、ネモは、誇りにあふれ、冷静な視線と高潔な心をもち、体のしぐさと顔つきが一体化した人物で、人相学者の観察によれば、これは文句なしの率直さから生まれているものだそうです。

ネモは機械工学にも長けノーチラス号も自らが設計し製造を指揮しました。また艦内には、なんと莫大な数の蔵書は納められた図書館や、博物館があるというのです。科学・哲学・芸術全般に通じて精通している教養人でもあり,文系理系の枠を超えたスーパーマン。それがネモなのです。

          🐚   🐚   🐚   🐚   🐚

しかし、このネモは、社会の規則なるものを憎悪し、不愉快極まる事情のため、人間との縁をきった男でした。そしてその興味を海中に求め、こう言うのです。

海の息吹は清らかで健康的です。(中略)海は独裁者のものではありません。海上ではいまだ不当な権利を乱用し、そこで争いあいむさぼりあい、すべての地上の恐怖を海上に運び込んでいますが・・・

 ネモは、経済至上主義で弱肉強食の当時の世界を毛嫌いしており、それに絶望して地上の支配の届かない海中に理想を打ち立てようとしていたのです。

実はノーチラス号は日本の南からスタートをして南太平洋→インド洋→紅海→地中海→南極→大西洋の経路をとるのですが、なぜスタートが日本だったでしょうか。私は実はネモが日本人なのではと密かに考え、それであれば面白いなと思いました。しかし、実際はインド人の元王子だったことが、別の小説「神秘の島」で明らかにされます。

いずれにしても優れた文明批評と科学知識の面白さを少年少女に伝えた本書は、大人にとってもに欠かせない本だと思います。