少年シニア 55歳から味わう国語

50半ばから人生を味わうために国語力アップを目指す記録・顛末

別れの言葉は短く正直に (知識人99人の死に方 荒俣宏監修より)

 

知識人99人の死に方 (角川ソフィア文庫)【使用教材】知識人99人の死に方 監修 荒俣宏 2000年10月 角川書店

 文は人なりといいますが、特に別れの言葉というのは、その人の人柄が現れるものだと思います。

 さくらさくらと言ひて死ににけり

 岩川隆氏が本書で自分の好きな遺書として紹介しているもので、絞首台にあがる前に青年将校がたったひとつ残した俳句?です。非常に意味深々な句ですが、作者の様々な想いがこの句に凝縮しているような気がして心を揺さぶられます。

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 様々な人の遺書とその人生を調べた岩川氏によれば、皮肉にも、この世にある者が感動するような文を書き綴って死んでいった人物たちの生は概して、それほど褒められたものではないということでした。「人間とは存在そのものが哲学だ」とか「死もまた美である」とか書いている立派な遺書から受ける印象とはとても結びつかない実像で、この世への未練が、「読ませる文章」「自分を立派に見せたい文章」を書かせると断じています。それに比べて好漢の遺書は具体的で短いそうです。

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社会派推理小説の大家、松本清張は便箋2枚に、財産のことを記した後、短い文で

●自分の通夜・葬儀は不要なり

●長い間皆に世話になった。わがままをいってすまない

●ナオは気持ちをゆったりして長生きし老後を楽しんでほしい。これまでの苦労を深く感謝する

●トシコ 陽一 アキラ タカハル・・・皆元気でいるように

●自分は努力だけはしてきた。思うように成果はなかったが

と記したそうです。簡潔な文章の行間に、家族への愛が感じられます。思うように成果がなかったというのは少々謙遜が過ぎますが。

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 簡潔さとともに、正直に本音を記すというのも、悪くないかも知れません・

 芥川賞の第一回受賞者で社会派作家として数々のベストセラー作品を産んだ石川達三は、79歳で永眠しますが、「最後の日記」にこんな文章を書きつけたといいます。

 私は死期が迫っていて、今晩死んでも当り前だと思っている。何の感慨もない。夢の如しと人は言うが私は永かったと思う。決して夢ではなかった。

そして絶筆となった1月12日の日記には寒い冬だ、春が待ち遠しい」と書き残して永眠したと言います。

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さて自分は、死ぬ間際にどんな言葉を残すのでしょうか。才があれば、芭蕉の「旅に病んで 夢は枯野を かけめぐる」や、蕪村の「白梅に 明くる夜ばかりと なりにけり」 のような時世の句で決めて、さらっとお別れしたいところですが、結局ぐだぐだと言葉を連ねそうに思います。それだけ別れの言葉というのは難しいもののようです。