少年シニア 55歳から味わう国語

50半ばから人生を味わうために国語力アップを目指す記録・顛末

名作鑑賞 森の生活

森の生活 (講談社学術文庫)【著者】ヘンリー・D:ソロー【訳者】佐渡谷重信 1991年3月刊 講談社

 前回取り上げたクルーソは孤島に漂流し図らずも孤独の身に陥ったわけですが、博物詩人のソローは自らの意志で人里離れた森に小屋を建て孤独な境遇に身をおきました。本書は、19世紀半ば、ソローが28歳のときから2年2か月間 ボストンから約40㌔郊外にあるコンコード村ウォ-ルデン池周辺での自給自足生活の日々を綴ったものです。ソローはこの実験の動機を次のように語っています。

 私が森に赴いたのは人生の重要な諸事実に臨むことで慎重に生きたいと望んだからである。さらに人生が教示するものを学びとることができないものか。私が死を目前にした時 私が本当の人生を生きたということを発見したいと望んだからである

 「本当の人生」というのが胸に響きます。本当の人生を生きるために、ソローは独りになること、自然から学ぶことが必要と考えたのでした。

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 ソローの魅力 それは一貫性と柔軟性 知性の尊重と野生への憧憬といった一見矛盾対立した概念が混じり合いながらも、「自然そのものと同じように素朴で賢明な心の持ち主でありたい」と強く願い、そのために自分を実験材料にしながら、上っつらだけの理想主義・博愛主義に陥ることなく、自分の思想を血肉化し生活そのものを芸術に高めようとしたその志の高さにあると思います。ソローは読者に強い自己反省をうながすため、私も敬遠していた時期があります。ソローの理想と自分の生活があまりにも乖離していて参考にならないと感じていた中年の時期です。しかし歳を重ねて50半ばになると再びソローの生き方が気になりだました。それでもう一度「森の生活」を読み直しました。

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あらためて読み直すと、やはりずしんと胸に響く言葉が飛び込んできます。

・永続するのは、ただ真実だけである。我々は大抵自分の居るべき場所におらず、偽りの場所にいる

・我々は自分の部屋に籠っている時よりも、外出して人ごみの中にいる時のほうが大抵の場合もっと孤独である。

・世界には新しいものが絶えず流れ込んでいるのに、我々は信じがたいほど退屈な生活に我慢している

 ただ、このような停滞は必ず突破できるとしてこの実験を総括して我々を勇気づけてくれるのです。

私は自分で実験した経験から少なくとも次のようなことを学んだ。もし人が自分の夢に向かって自信をもってまっしぐらに進み自分が想像した生活をしようとすれば、普段考えてもみなかったような成功にめぐりあうだろう。

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 彼自身「用事があれば酒場の一番元気な常連よりも長居することがある」と語っているようにソローは決して、人間社会を避けた隠遁者ではありません。むしろ彼はその生き方によって社会を変えようとした人間です。彼は自分の住むコンコード村そのものが知の拠点として大学の役割を果たし芸術の後継者になることも提唱しています。だから森に入った時と同じ理由で、ソローは森を去り人間社会に戻って森の生活で学んだ生きた知識を人々に伝えようとしたのです。私もソローほどではないにせよ55歳を機に好奇心をもった生き方をする実験を今おこなっているところです。ソローの数々の言葉はあらためて私に勇気を与えてくれました。ありがとう!ソロー